« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »

2009年5月

―19―

 コンビニに勤め始めてから半年が経つころには、デート代のほとんどをあたしが払うようになっていた。

 「ごめーん、マユ・・・」

 テツヤにそう言われると、断れなかった。それ以外は出会ったころと変わらずに優しかったし、優しく抱きしめてくれるその腕を放すわけにはいかなかった。

 とは言え、バイト代は月に5万ほど。食事をしてホテルに行けば、1回のデートで軽く1万は超えてしまう。服や化粧品代も考えると、5万円じゃ全然足りない。ウリをやってたころに稼いだ金が20万ほど残っていたけど、それももうじき底をついてしまう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

―※―

 「マユ、ごめん。今月ちょっとキツくてさぁ、今日はワリカンでもいいかな?」

 付き合い始めて3ヵ月がたったある日、テツヤが言った。

 「あ、いいよ。たまにはあたしにおごらして。いつもだしてばっかで、悪いなーって思ってたんだ」

 あたしは伝票を確認する。金額は5千円ちょっと。居酒屋で飲み食いすればどうしてもこのくらいにはなってしまう。そっと財布の中を確認すると、1万円札が目に入った。大丈夫。

 「じゃあ、行こっか」

 あたしは伝票を手に立ち上がった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

―18―

 翌日からあたしは再びコンビニで働きはじめた。出かける前には忘れずにリタリンをのむ。計算すると、1日に使える量は2錠まで。仕事中に切れると怖いので、細かく砕いたものを数回に分けて飲むことにした。

 商品の品揃えと制服が変わったくらいで、仕事内容は以前とほとんど変わらなかった。ここなら傷跡の心配をする必要もない。

 5時までバイトをして、そのあとテツヤからの連絡を待つ。たまの残業の日以外、あたしたちはほとんど毎日会っていた。バイトを始めたことはテツヤには話さなかった。あたしもテツヤがどんな仕事をしているのかは知らない。どこに住んでいるのか、1人暮らしなのか実家なのかそれすらも。だってそういう話題になったことがなかったから。気にならなかったといえばウソになる。でも何かの拍子に過去の自分がバレるのではないかと思うと、尋ねることができなかった。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

―※―

 約束の時間に店に行くと、メガネをかけた30代後半くらいの男がレジに立っていた。

 「あの、3時に面接のお約束をしている山田と申しますが・・・」

 「ああ、お待ちしてました。こちらへどうぞ」

 店の奥に通される。どうやらこの男が店長らしい。履歴書を渡し、勧められたパイプ椅子に腰掛ける。机の上にはパソコンと、店内の様子を映すモニターがある。どこの店も一緒だな、と思った。

 「コンビニは初めてじゃないんだね。希望の時間帯は?」

 履歴書に目を通した店長が尋ねる。

 「平日のお昼頃から夕方まで、で考えてるんですけど・・・」

 「今ちょうど11時から5時までの人が1人辞めちゃってさ、困ってたんだよね。その時間入れるかな?」

 「はい。ただ、水曜は用事があるのでちょっと・・・」

 「いいよ。うん、じゃあ、水曜日はお休みということで。明日からでも大丈夫?」

 「あ、はい」

 拍子抜けするくらいに簡単に決まった。前の店を辞めた理由や、そのほかのいろんな事を聞かれたらなんて答えようか考えていたけれど、全く必要なかった。

 時給850円で6時間。週に4日。1週間働いても、客を1人取るより安い。これが普通なんだ。そう自分に言い聞かせる。ウリをやってたことがバレたら、今度こそテツヤに嫌われる。それだけが怖かった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »