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2009年4月

―17―

 次の日あたしは近所のコンビニで履歴書を買い、無料の求人誌をありったけもらってきた。もう、ウリはやらない。テツヤに抱かれながらあたしはそう決めていた。

 カフェに入りアイスティーを頼む。一番奥の席を陣取り、パラパラとページをめくる。長時間の仕事は、体力的にキツイ。病院の日は無理。正社員とか、そういうのはなんか違う。

 結局、接客系のアルバイトしかない。ファミレス、ファーストフード、ドーナツ屋・・・。基本的に制服のあるところばっかりだ。あたしは、半袖の制服は着られない。コンビニだったら私服の上に制服を重ね着すればいいから、腕を出さずにはすむ。ふとトシオのことを思い出す。できればコンビニは避けたかった。求人誌を隅から隅までチェックするけど、あたしにできそうな仕事はほかには何も見つからなかった。しかたないか。あたしは携帯を開き、なるべく家から離れたコンビニを選んで電話をかける。以前とは違う系列の店。

 「じゃあ面接をしたいので、明日履歴書を持って来てもらえますか?」

 店長らしき男が言った。3時に約束をし、電話を切る。さっき買った履歴書をひっぱり出す。履歴書を書くのは嫌いだ。なんでいちいち過去を思い出さなきゃいけないんだろう。それでもなんとか空欄を埋める。アイスティーを飲み干し、証明写真を撮るために店を出た。

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―※―

 大きなバスタブにお湯を溜める。部屋にあった入浴剤を入れたらバブルバスになった。モコモコした泡の中に2人で体を沈める。

 「どうして?」

 さっき聞けなかった疑問を口にする。

 「なんで・・・、気持ち悪くないの?こんな・・・」

 テツヤがあたしの左手を取る。温まったあたしの傷はいつもより赤みを増していた。

 「何があったのかは、無理には聞かないよ。でも、これもマユなんだろ?」

 その傷を優しくなぞりながら言う。

 あたしは涙がでそうになった。

 「俺の前では隠さないで。何があっても受け止めてあげるから」

 「キライにならない?」

 「なるわけないじゃん」

 そう言って、軽くキスをしてバスタブから上がる。

 「おいで?体、洗ってあげるから」

 あたしは差し出されたその手を「離したくない」と思った。

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―16―

 シャワーを浴びて、備え付けの部屋着に着替える。

 「ちょっと待っててね」

 入れ替わりにテツヤがバスルームに向かう。

 ラブホテルの1室。1人になったあたしは、コロンとベッドに横になった。手を伸ばしてバックを手繰り寄せる。中から化粧ポーチを取り出して軽くメイクを直す。グロスを唇にのせる。携帯をチェックして、電源を切った。テレビを付けると、AV女優のあえぎ声が部屋に響いた。あわててテレビを切る。ラブホなんて慣れているはずなのに、なんでこんなに落ち着かないんだろう。

 パタン。ドアの開く音にビクっとして飛び起きる。

 「ごめん、お待たせ」

 半そでの部屋着を着たテツヤの姿。あたしは、はっとして左腕を押さえる。しまった。忘れてた。どうしよう。

 「ちょ、ちょっと待って・・・」

 「だーめ。いまさら待てない」

 テツヤはそう言いながらあたしを抱きしめる。長い長いキス。

 「ね、電気・・・」

 キスの切れ間に懇願する。テツヤが手を伸ばして枕元の証明を調整する。部屋が少しだけ暗くなる。

 「やぁ・・・もっと暗くして・・・」

 「これ以上暗くしたらマユの顔が見えない」

 そう言って覆いかぶさってくるテツヤ。キスをしながらあたしの服を脱がせていく。あたしは身を任せながらもなるべく傷跡を見られないようにするしかなかった。もちろんそんな不自然さはすぐにバレてしまう。ベッドに押し倒されると同時にあらわになる左腕。薄明かりの中でも醜くデコボコとした傷跡がはっきり見える。テツヤの動きが止まる。これで終わりだ。そう思った瞬間、テツヤは傷跡にキスをした。

 「どうして・・・」

 尋ねようとするその唇が塞がれる。テツヤは、優しかった。

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―※―

 「もしかして、何か用事とかあった?」

 「なんで?」

 あたしはハンバーグをつつきながら聞いた。

 「いや、なんとなく・・・」

 「別に、なんもないよ?ちょっとヒマだったから立ち読みしてただけだし」

 テツヤからの連絡を待ってたなんて、口が裂けても言えやしない。

 「ならよかった」

 「そう?」

 「もしかして、ムリヤリ付き合わしてたら悪いなーって思ったから」

 「そんなことないよ?こうやっておいしいゴハンも食べれるし」

 「俺って、メシだけなの?」

 テツヤがあんまり情けない顔をするから、あたしは思わず吹き出してしまう。

 「よかったぁ・・・!」

 「へ?」

 「初めて笑ってくれた」

 「そうだっけ?」

 「うん。すげーうれしい!!」

 ”超”がつくほどの笑顔にあたしの気持ちもほどけてゆく。

 「・・・ほんとは、待ってたんだ」

 「えっ?」

 「きっと、連絡くれるんじゃないかって思って。待ってた」

 「・・・それって、めちゃめちゃうれしいんだけど」

 顔がかぁーっと熱くなる。きっと今、あたし真っ赤な顔してる。

 「見ないでよ。恥ずかしいじゃん」

 テツヤが手を伸ばしてあたしのアタマをなでる。

 「ありがと。かわいいよ、マユ」

 あたしはうつむいて無言で残りのハンバーグを口に詰め込んだ。

 

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―※―

 本屋で雑誌を立ち読みしていたとき、案の定テツヤからメールが入った。

 『ふう、今仕事終わったよ。マユは今どこにいるの?』

 『駅前の本屋』

 『ほんとに?じゃあ、そこで待っててくれる?今すぐ向かうから!』

 やっぱり夜の客をとらなくてよかった。

 『OK!』

 そう返事をして、トイレに向かう。ポーチから香水を取り出し、ほんのちょっとだけつける。グロスを塗りなおして、店内に戻る。雑誌の続きを読んでいると、ポンと肩を叩かれた。振り返るとテツヤの笑顔。 

 「待った?」

 「ううん。雑誌見てたし、平気」

 話ながら外に向かう。

 「メシ付き合ってくれる?さすがに昨日みたいに豪勢にはいかないけど」

 「いいよ。じゃあ、牛丼とか?」

 「そこまで安いとこじゃなくてもいいよ」

 笑いながらテツヤは言った。

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